神社仏閣

界川神社(札幌市中央区)

2024年9月19日

円山の南の麓に佇む界川神社

界川神社の社殿

札幌市民はもちろん、観光客にも人気のスポット、円山。

北麓や西麓には、緑豊かな公園や動物園、北海道神宮があり、多くの人々が訪れます。

一方、その南麓に、ひっそりと佇む神社があるのをご存知でしょうか。

それが、標高225mの円山を背に、静かに時を刻む界川神社です。

明治時代からこの地を見守り続けてきた小さな神社ですが、地元の人々から大切にお祀りされています。

今回は、そんな界川神社の歴史や魅力についてご紹介します。

界川神社のご由緒

界川神社の境内には、詳しい由緒が記された掲示板などはありません。

そこで、今回は『円山百年史』などを参考に、界川神社の歴史を紐解いてみます。

界川の地名の由来と開拓の歴史

界川神社の社殿と馬頭観音碑

界川神社の名前は、現在もこの地を流れる「界川」から名付けられました。

この川は、かつて旧円山村と藻岩村の境となっていたことから、その名がついたそうです。

明治時代の中頃になると、川の名前から転じて、円山の南麓一帯(現在の双子山・界川・旭ヶ丘周辺)が「界川」と呼ばれるようになりました。

そんな界川の開拓が始まったのは、手稲の軽川から双子山地区に6戸が移住した、明治30(1897)年の頃です。

明治36(1903)年頃になると、彼らは円山山麓に小さな祠を建て、札幌神社のご分霊をお祀りしました。

これが、界川神社の始まりです。

界川神社の変遷

明治末期にかけて、界川には陶器工場や牧場が開設され、農家も徐々に増えていきます。

そこで大正初期に、界川神社は吉野山(現在の旭山記念公園)の山頂に遷座、集落の鎮守社として祀られるようになりました。

旭山記念公園からの眺望

眺望抜群な旭山記念公園。

旧名の吉野山は、明治から大正初期頃の所有者の名前に由来し、付近では牧場経営や野菜栽培などが行われていました。


やがて札幌の市街地の拡大と共に、大正後期になると界川にも宅地化の波が押し寄せます。

この地で宅地分譲を行った札幌温泉土地株式会社は、環境整備の一環として、定山渓の湯を引いた札幌温泉を開業。

宿泊施設も整い多くの市民で賑わった札幌温泉の後援もあり、この頃の界川神社の例祭は盛大なものだったといいます。

札幌温泉は自社で敷設した路面電車の変電所の火災などの影響を受け、昭和5年(1930)頃には廃業。

界川神社の社殿

しかし、界川神社は引き続き地域の信仰を集め続け、昭和29(1954)年には札幌市から市有地の払い下げを受け、現在の地に遷座しました。

この土地は、明治時代に旧円山村が火葬場用地として取得したものの、地元住民の反対により建設を断念、空き地のまま市町村合併に伴い札幌市に移管された場所でした。

地域の開拓と発展の歴史と深く結びついている界川神社。

時代とともに変化を遂げながらも、界川神社は地域の中で、今もなおその存在感を示しています。

界川神社のご祭神

界川神社の社殿の扁額

界川神社のご祭神は神社の境内に明記されていませんが、『円山百年史』によると、札幌神社からご分霊を受けて創祀されたとあります。

そのため、札幌神社の当時のご祭神であった、大国魂神(おおくにたまのかみ)・大那牟遅神(おおなむちのかみ)・少彦名神(すくなひこなのかみ)の3柱の神様がお祀りされていると考えられます。

大国魂神

北海道の国土の神様です。

大那牟遅神

「大国主神(おおくにぬしのかみ)」とも呼ばれ、日本神話上、地上世界の国造りを行ったとされる神様です。

開拓や国土経営の神といわれています。

少彦名神

大那牟遅神の国造りに協力したとされる神様です。

開拓や国土経営の他、医療や酒造りの神といわれています。

界川神社の境内

界川神社の境内は、静かで落ち着いた雰囲気に包まれています。

社殿

界川神社の社殿

界川神社の社殿は、境内地の奥に造られた石垣の上に佇んでいます。

『円山百年史』の写真と比較すると、社殿は建て替えられていますが、石垣は当時のままであることが分かります。

こじんまりとしたながらも手入れが行き届いており、清々しさを感じる社殿です。

界川神社の手水鉢

社殿へ続く階段の麓に置かれた手水鉢。

昭和12(1937)年という刻字から、かつての境内地から移設されたものと思われます。

馬頭観音碑

界川神社の馬頭観音碑

社殿の右手にある木陰にひっそりと建つ馬頭観音碑。

農作業に欠かせない存在として牛馬が大切にされてきた、農村だった頃の界川の様子を偲ばせてくれます。

なお、碑の裏面を見ると平成9(1997)年建立とのことですが、土台はそれよりも古いように見受けられます。

鳥居

界川神社の石段と鳥居

石段を登った先にある鳥居。

平成22(2010)年に地元の方々によって奉納された、こぢんまりとしたものですが、社号がしっかりと掲げられています。

今もなお、地域の人々の手によって、境内の整備が進められていることが伝わってきます。

木漏れ日の中、静かに時を刻む界川神社

陽が差し込む界川神社の境内

界川神社は、狛犬もいないこじんまりとした神社ですが、その静かなたたずまいは訪れる人の心を穏やかにしてくれます。

境内は、陽の光に緑が輝いており、地域の人々によって大切に管理されている様子が伺えます。

路線バスでのアクセスとなりますが、札幌市内を一望できる旭山記念公園からは徒歩圏内です。

公園散策とあわせて、界川神社にも足を運んでみてはいかがでしょうか。

きっと、静かなひとときを過ごすことができるはずです。

アクセス

アクセス;JR北海道バス「南8条西25丁目」停留所から徒歩6分、同「南9条西22丁目」停留所から徒歩7分

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参考文献
「円山百年史」(円山百年史編纂委員会 編/1977年)

「さっぽろ文庫1 札幌地名考」(札幌市教育委員会 編/1977年)
「さっぽろ文庫39 札幌の寺社」(札幌市教育委員会 編/1986年)

  • この記事を書いた人

福島智美

札幌生まれ、札幌育ちの文学修士。学術からビジネス実務の道へ転身し、山口と共に起業する。学芸員資格者でもあり、北海道博物館での実習経験もある。本サイトでは史跡や寺社などを担当。趣味は和装とフィギュアスケート観戦。

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