札幌の遺跡とその出土品を紹介する札幌市埋蔵文化財センター
札幌市中央区の札幌市埋蔵文化財センターは、市内の遺跡の発掘調査や、それらの遺跡の出土品を収蔵・展示している施設です。
センターは札幌市中央図書館に併設されており、展示スペースはコンパクトながら、近世以前の札幌の歴史を学ぶことができる、市内でも数少ないスポットの一つです。
札幌市中央図書館は、札幌市街の方でも利用できます(貸し出しは札幌市民か市内勤務者のみ可能)。館内には、昼食や軽食を提供する食堂やカフェもあり、多くの利用者が訪れています。
札幌市埋蔵文化財センターの展示室
札幌市埋蔵文化財センターの展示室では、旧石器文化からアイヌ文化まで、札幌の歴史を物語る遺跡の中から、代表的なものを紹介しています。
また、その出土品を通して、それぞれの時代の暮らしや文化を、時系列に沿って学ぶことができます。
本州以南とは異なる北海道の時代区分
北海道は寒冷地であるため、明治時代に開拓が本格化するまで、本州以南のように本格的な農耕中心の生活は広まりませんでした。
そのため北海道では、近世まで狩猟・漁労や採集を中心とした生活文化が続きました。
このような事情を踏まえて、北海道の歴史では、本州以南の弥生時代から江戸時代までの期間について、以下の4つの時代区分が用いられています。
- 続縄文文化
- 擦文文化
- オホーツク文化
続縄文文化から擦文文化の頃にかけて、オホーツク海沿岸を中心に広まった、大陸の影響を受けた文化。 - アイヌ文化
札幌市埋蔵文化財センターでも、上記の時代区分に従って、展示が行われています。
ふたつの札幌市指定有形文化財
埋蔵文化財センターの展示室に入ると、最初に目に入るのは、センターが所蔵する2つの札幌市指定有形文化財です(双方ともレプリカ)。
土偶(N30遺跡出土品)
N30遺跡は西区二十四軒地区にある遺跡です。
その出土品約1,400点が、縄文時代後期から晩期の生活を知る貴重な資料であるとして、有形文化財に指定されています。
展示室の入口に展示されている印象的な土偶は、さっぽろ雪まつりの市民雪像の題材にもなった、N30遺跡の出土品を代表する存在です。
旧琴似川流域の竪穴住居跡分布図
明治27(1894)\年頃に作成された旧琴似川流域の竪穴住居跡分布図は、作成当時に市内中心部から北区麻布町付近までの間に残っていた竪穴住居跡の窪みを記録した古地図です。
この分布図を元に40か所ほどの遺跡が発見されるなど、その資料的価値の高さから、有形文化財に指定されました。
旧石器文化からアイヌ文化にかけての遺跡と出土品
札幌市指定文化財の紹介に続いては、市内に約560か所以上ある遺跡の中から、代表的な遺跡と出土品の実物が展示されています。
これらは、旧石器文化からアイヌ文化期に至るまでの各時代区分に沿って紹介・展示されており、見学することで自然と各時代の特徴を学べるようになっています。
旧石器文化
旧石器文化の遺跡としては、白石区のS354遺跡が紹介されています。
札幌市内では旧石器時代の出土品が見つかることが少なく、約1万6千年前の石器が発見されたこの遺跡は、市内で最も古い遺跡のひとつに数えられています。
縄文文化
縄文文化の遺跡として、入口に展示されている土偶が出土したN30遺跡が取り上げられています。
この遺跡は、約3,700年~2,300年前にかけてのもので、土器や石器の他に、竪穴住居跡や土坑墓などの遺構も見つかっています。
N30遺跡は、ポリテクセンター北海道(北海道職業能力開発促進センター)の建設工事に伴い、発掘調査されました。
ポリテクセンター北海道の1階ロビーにも、N30遺跡の土偶のレプリカが展示されています。
続縄文文化
先述の通り、本州以南では稲作が広まり、縄文文化は終わりを告げ、弥生文化が始まります。
一方、北海道では、弥生文化の影響を受けつつも、採取・漁労・狩猟を中心とした縄文文化の特徴を色濃く残した生活文化が発展しました。これを続縄文文化といいます。
札幌市埋蔵文化財センターでは、続縄文文化の遺跡として、東区の丘珠空港で発見されたH37遺跡を紹介しています。
展示室中央のジオラマは、続縄文文化の遺跡であるK135遺跡(札幌市北区)をモデルに、当時の様子を再現したものです(著作権上の制約(個人所有)により、ジオラマの写真撮影は不可)。
擦文文化
本州以南では奈良時代に移行する頃、北海道では擦文文化が始まります。
「擦文」とは、この頃の土器の表面に施された、木のヘラなどで擦ったような模様のことを指します。
擦文文化では、竪穴住居の造りや土器の形などに本州の影響がみられ、鉄器や雑穀の栽培を取り入れた生活が営まれました。
擦文文化の遺跡として紹介されているK39遺跡では、鉄製品や雑穀が見つかっています。
アイヌ文化
本州以南が鎌倉時代に移行する頃、北海道では土器が作られなくなり、擦文文化は終わりを迎え、アイヌ文化の時代が始まります。
ここから明治時代に開拓が本格化するまでの間、アイヌ文化が形作られていきます。
アイヌ文化期の遺物が発掘された北区のK501遺跡では、竪穴式ではなく平地式の建物の跡や、漆器や刀、古銭などの出土品に、アイヌ文化期の特徴がみられます。
企画展コーナー
札幌市埋蔵文化財センターの展示室には、企画展コーナーがあり、様々なテーマに沿った展示や、最新の発掘調査の成果を報告する速報展が行われています。
北海道の指定有形文化財である、K446遺跡の企画展。
麻生球場(札幌市北区)の一角に位置するこの遺跡は、旧琴似川流域の竪穴住居跡分布図を頼りに発掘調査が行われ、市内で初めて須恵器が出土した、貴重な遺跡です。
動物の狩りをテーマにした企画展。
狩りに使われた黒曜石の矢じりや、狩りで得られた動物の骨などの出土品を展示するほか、落とし穴の遺構などをパネルで紹介しています。
体験コーナー
新型コロナの流行期に休止していた体験コーナーですが、現在は復活。
土器のレプリカを触ったり、タッチパネルで縄文時代の生活を追体験できます。
タッチパネルは子供向けの内容となっていますが、大人でも楽しめますよ。
札幌市埋蔵文化財センターで開拓前の札幌の姿を学ぶ
札幌市埋蔵文化財センターは、小規模ながらも、札幌市の遺跡とその出土品を通して、旧石器時代から近世までの札幌の様子を知ることができる施設となっています。
見学後には、併設の札幌市中央図書館の蔵書で、さらに知識を深めることができます。
皆さんも札幌市埋蔵文化財センターで、古代の札幌に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。