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本郷新記念札幌彫刻美術館(札幌市中央区)

2023年2月13日

札幌の閑静な住宅街に佇む、彫刻専門の美術館

本郷新記念札幌彫刻美術館本館

札幌市中央区宮の森の眺望のよい静かな住宅街に、北海道で初めて作られた、彫刻を専門とする美術館があります。
それが、札幌出身の彫刻家・本郷新の名を冠した、本郷新記念札幌彫刻美術館です。

晩秋のとある日に美術館を訪ね、彫刻の世界に触れてきました。

本郷新記念札幌彫刻美術館とは

本郷新の略歴

本郷新の自画像
本郷新の晩年の自画像

彫刻家の本郷新は、明治38(1905)年に札幌市に生まれました。札幌第二中学校(現札幌西高等学校)と北海中学(現北海高校)で学び、この頃から芸術家を志すようになります。

その後、東京高等工芸学校(現千葉大学工学部)で彫刻を学び、高村光太郎に師事。西洋近代彫刻の影響を受け、写実を基盤とした造形を探究しました。

本郷新「わだつみの声」
本郷新記念札幌彫刻美術館の本館前庭に設置された、戦没学生記念像「わだつみの声」

彫刻の社会性や公共性を重視し、全国各地に数多くのモニュメントを建てました。代表作に、日本平和文化賞を受賞した「わだつみの声」などがあります。
また、故郷の札幌市にも、大通公園の「泉の像」などの野外彫刻を残しています。

大通公園の泉の像(本郷新)
「泉の像」は、大通公園を象徴する彫刻のひとつ

昭和55(1980年)に74歳で亡くなった彼の遺志を継ぎ、その翌年に開館したのが、本郷新記念札幌彫刻美術館です。

本郷新記念札幌彫刻美術館の概略

本郷新記念札幌彫刻美術館は、昭和56(1981)年、前年に没した戦後日本を代表する彫刻家・本郷新の「自身のアトリエと作品を寄贈・一般公開し、彫刻を中心とした美術文化に貢献したい」との遺志を受けて開館しました。

本郷新記念札幌彫刻美術館本館の1階エントランス

本館と、それに隣接する記念館の二つの建物からなり、本郷新の作品を中心に、1,800点余りの作品を所蔵・展示しています。

彫刻専門の美術館として、本郷新の作品やその制作の過程に触れるだけでなく、彫刻の魅力を感じることができる、貴重な施設です。

本郷新記念札幌彫刻美術館の本館全景

本館は、美術館の開館にあたり、大正から昭和の北海道を代表する建築家・田上義也の設計で建てられました。
札幌市内に残る田上義也による建物として、中島公園のこぐま座や、札幌市豊平川さけ科学館などがあります。

記念館は、本郷新のアトリエとギャラリーを兼ねた邸宅として彼の晩年に建てられ、美術館の開館にあたり札幌市に寄贈されました。
設計は北海道函館市出身の建築家である上遠野徹です。

本郷新記念札幌彫刻美術館の記念館の全景

本郷新記念札幌彫刻美術館の展示

本郷新記念札幌彫刻美術館では、本館と記念館の二つの建物で、多彩な展示を行っています。

本館の展示

本郷新記念札幌彫刻美術館の本館内部

本館では、企画展・特別展やコレクション展が開催されています。

企画展・特別展では、本郷新や北海道にゆかりのある作家の作品を展示するほか、陶芸や舞台美術など立体造形の幅広いジャンルを取り上げた展覧会も開催されています。

また、コレクション展では、収蔵資料の中核をなす本郷新の作品を、様々な切り口で紹介しています。

記念館の展示

本郷新記念札幌彫刻美術館の記念館の室内

記念館では、元アトリエとして使われていた建物に、本郷新の野外彫刻の石膏模型や、実際に使用していた制作道具や家具が展示されています。
元アトリエという建物の効果もあり、本郷新の人となりや制作活動をより身近に感じることができます。

本郷新記念札幌彫刻美術館を訪ねて

本郷新記念札幌彫刻美術館の特別展とサンクスデーの看板

2022年11月初旬の晩秋の日、本郷新記念彫刻美術館を訪ねました。
この日は、時折霧雨が降るあいにくの天候でしたが、様々なイベントが行われる無料開放日のサンクスデーということもあり、多くの来館者で賑わっていました。

本館(特別展)「建築家上遠野徹と本郷新の宮の森のアトリエ」

まずは本館で行われていた特別展「建築家上遠野徹と本郷新の宮の森のアトリエ」を観賞しました。

本郷新記念札幌彫刻美術館の特別展の展示風景

この展覧会は、昭和52(1977)年に建てられた本郷新のアトリエ(現在の本郷新記念札幌彫刻美術館の記念館)を中心に、その設計者である上遠野徹が手がけた建築物や、本郷新がアトリエで過ごした最晩年の様子を紹介するものでした。

建築家と彫刻家の交流と創造の軌跡をたどることができる、貴重な機会となりました。

上遠野徹が設計した住宅建築の模型や写真の展示

上遠野徹は大正13(1924)年生まれで、85年の生涯の中で、幅広い建物を設計しています。
展覧会では、本郷新アトリエを手がけるまでに設計した住宅建築にフォーカスを当て、写真や模型でその仕事の特徴に迫っています。

手紙や設計図などを通じて、アトリエの建築過程をたどる展示。
本郷新は、細部にまでこだわりを見せ、アトリエの設計に積極的に関わっていました。また、上遠野徹との間で、数多くのやり取りが交わされていたことがうかがわれました。

アトリエ建築に関連する本郷新と上遠野徹の所感や設計図

本郷新は、アトリエ完成からわずか2年数か月後に亡くなりました。展覧会では、アトリエで制作された作品や様々な資料を通じて、その最晩年の様子を追うことができました。
写真の「遥かなる母子像」は、彼がアトリエで制作した最後の作品です。

彼は、闘病生活の中でも、アトリエと全作品を寄贈し彫刻美術館を設立しようと活動していました。その姿は、芸術家としての強い意志と、後世への思いを強く感じさせるものでした。

記念館(常設展示)

本郷新記念札幌彫刻美術館の記念館の入口
記念館のエントランスと、その前に設置された「鳥の碑」

次に、記念館を訪れ、本郷新の作品や野外彫刻の石膏原型を鑑賞しました。
また、この記念館の建物を取り上げた特別展を開催中だったため、普段は公開していない居住部の階段や寝室も見学することができました。

本郷新記念札幌彫刻美術館の記念館の展示室

本館の特別展で記念館の建築過程を知った後だったため、建物の造りも興味深く観察しました。
展示室には、吹き抜けや橋状の通路を配置し、彫刻を多角的に鑑賞できるように設計されています。

展示室に置かれた野外彫刻の石膏模型は、室内で見るとその大きさと迫力に驚きます。
吹き抜けがあるため、屋外彫刻を間近から見下ろすという、貴重な体験もできます。

本郷新の野外彫刻の石膏模型を上から見下ろす
本郷新記念札幌彫刻美術館で展示された「花束」の小型ブロンズ像

南区の真駒内公園にある野外彫刻「花束」の小型ブロンズ像。
五輪大橋の東たもとに向かい合うように設置されている様を再現するかのように、橋状の通路の両側に展示されており、学芸員の方のセンスに感銘を受けました。

平和運動に積極的だった本郷新の「無辜の民」シリーズ。戦争で苦しむ罪のない人々の姿を表現した作品です。
見晴らしのよい窓の向こうの閑静な住宅街との対比が、その苦しみや悲しみをいっそう胸に迫らせました。

本郷新の「無辜の民」

本郷新記念札幌彫刻美術館の楽しみ方

館外で楽しむ

本郷新記念札幌彫刻美術館とタイアップしたさっぽろ雪まつりの雪像
2023年のさっぽろ雪まつりに出張展示された雪像彫刻

本郷新記念札幌彫刻美術館は、館内だけでなく、前庭などの屋外でも本郷新の作品を展示しています。
前庭では毎冬、雪像彫刻展という雪の積もる札幌ならではの展覧会も開かれています。

本郷新記念札幌彫刻美術館付近の三叉路に設置されている「奏でる乙女」像
彫刻美術館付近の三叉路に設置されている「奏でる乙女」像

また、最寄りのバス停から美術館までの道のりにも、「奏でる乙女」や「鳥を抱く女」など本郷新の作品が置かれています。
美術館の行き帰りにこれらの彫刻を楽しむのもおすすめです。

イベントや企画を楽しむ

本郷新記念札幌彫刻美術館では、さまざまなイベントが開催されています。
例えば、筆者も訪れたサンクスデーは、年2回行われ、入館料が無料になるほか、創作や講話など様々な企画も用意されています。

本郷新記念札幌彫刻美術館館のサンクスデーの様子
2022年秋のサンクスデーでは、特別展のギャラリーツアーが行われていた

また、本郷新や彫刻芸術に関する講演会・シンポジウムや子供向けのワークショップも積極的に開催しています。
その中でも、彫美連続講座は、彫刻に関するテーマを扱う講座で、オンライン聴講も用意されています。札幌近郊の方でなくても、講座に参加することができます。

ゆったりと本郷新に触れる、おすすめの美術館

本郷新記念札幌彫刻美術館の展示品の彫刻

本郷新記念札幌彫刻美術館は、札幌市の閑静な住宅街に佇む美術館です。周囲の自然と調和した落ち着いた雰囲気の中、本郷新の芸術に触れることができます。

ゆったりとした時間を過ごしたい方や、本郷新の芸術に興味がある方に、ぜひおすすめします。

アクセスと開館時間

休館日;毎週月曜日(祝祭日の場合はその翌平日)、年末年始、展示替え期間
開館時間;10時~17時(入館は16時30分まで)
入館料;展覧会により異なる(本館・記念館共通チケット) 
電話番号;011-642-5709
アクセス;地下鉄東西線「西28丁目駅」からJRバス(循環西20)乗車、「彫刻美術館入口」下車、徒歩約10分 ※駐車場あり(無料)
ホームページ;本郷新記念札幌彫刻美術館公式サイト

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参考文献
「さっぽろ文庫21 札幌の彫刻」(札幌市教育委員会 編/1982年)
本郷新記念札幌彫刻美術館公式ホームページ
札幌市豊平川さけ科学館開館30周年記念誌

  • この記事を書いた人

福島智美

札幌生まれ、札幌育ちの文学修士。学術からビジネス実務の道へ転身し、山口と共に起業する。学芸員資格者でもあり、北海道博物館での実習経験もある。本サイトでは史跡や寺社などを担当。趣味は和装とフィギュアスケート観戦。

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