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札幌市資料館(札幌市中央区)

2022年12月19日

札幌の歴史と文化の香り漂う、大正モダンの建物

札幌市資料館の門から建物を望む

札幌市資料館は、札幌中心部の大通公園の西端に佇む、大正モダニズムの香り漂う建物です。

大正15(1926)年に札幌控訴院(現在の札幌高等裁判所)として建てられ、令和2(2020)年、国の重要文化財に指定されました。

現在は、控訴院時代の法廷を再現した部屋や札幌の街づくりの歩みを紹介する展示室、札幌出身の画家・漫画家である、おおば比呂司の記念室などとして一般公開されています。

本記事では、札幌市資料館の特徴と魅力を筆者の感想を交えながらご紹介します。

札幌市資料館の特徴

落成から間もないころの札幌控訴院(現在の札幌市資料館)
落成から間もないころの札幌控訴院(北海道大学附属図書館所蔵)

札幌市資料館は、大正時代末期に司法省の設計で建てられました。
その構造やデザイン、使われている石材などに様々な特徴がみられ、建築好きの方はもちろん、そうでない方も一見の価値があるスポットです。

新旧の建築構造やデザインが融合

建築構造

札幌市資料館と大通公園の噴水

外壁は札幌軟石を使用した石造、室内の壁はレンガ造と、昔ながらの工法が使われています。
その一方で、2階の床と階段は、当時最新の工法だった鉄筋コンクリート造となっています。

石造・レンガ造・鉄筋コンクリート造と異なる構造が組み合わさった札幌市資料館は、他に類を見ない珍しい建築物です。

デザイン

札幌市資料館の正面玄関
正面玄関には、法の女神、公平を表す秤と正義を表す剣など、控訴院にふさわしい意匠が残る

左右対称の建物正面や窓の配列などに古典的な雰囲気を持つ一方で、玄関ポーチの軒回りや「札幌控訴院」の文字や女神のレリーフなどには、大正モダニズムの要素が取り入れてられています。

札幌市資料館の中央ホールの回り階段

ステンドグラスや不規則な形の手すりが印象的な、中央ホールの回り階段。
建築当時のモダニズムが感じられる箇所の一つです。

このように新旧の構造・デザインが織り交ぜられた札幌市資料館は、建築物の近代化の過渡期を象徴する、貴重な建物となっています。

代表的な札幌軟石造りの建物

札幌市資料館の外壁には、地元産の石材である札幌軟石が使われています。

札幌軟石は札幌市南区で産出する凝灰岩の石材で、柔らかく加工しやすいため、明治初期から建築資材や墓石などに使われてきました。

旧石山郵便局(ぽすとかん)
札幌軟石で作られた旧石山郵便局(ぽすとかん)

時代の流れと共に札幌軟石を使った建物は少なくなっていますが、札幌市資料館はその中でも最大級のものであり、その温かみのある佇まいは多くの人々を魅了し続けています。

札幌軟石で作られた相馬神社の狛犬

札幌軟石は建物以外にも様々な用途に使われました。
市内の神社では鳥居や狛犬、石碑など、札幌軟石を使った石造物を多く見かけます。
(写真は相馬神社(豊平区)の狛犬)

札幌市資料館の屋内

札幌市資料館のミニギャラリー
水彩画の展覧会が行われていたミニギャラリーの様子

昭和48(1973)年、裁判所の移転を機に開館した札幌市資料館。

現在、資料館には「刑事法廷展示室」「おおば比呂司記念室」「まちの歴史展示室」などの常設展示室が設置されているほか、2階にはミニギャラリーや研修室などの貸室があり、市民活動の場としても利用されています。

刑事法廷展示室(1階)

札幌市資料館の刑事法廷展示室

「刑事法廷展示室」は、札幌控訴院として建てられた大正末~昭和初期の刑事法廷を再現したものです。

110平方mほどの一室に、木製の長机と椅子、裁判長席や証人席などが配置され、当時の法廷の雰囲気をそのままに再現しています。

また、戦前まで弁護士が法廷で着ていた法服なども展示されており、当時の法廷の様子をより具体的にイメージすることができます。

札幌市資料館の刑事法廷展示室

よく観察すると、ニュースやドラマで見る現代の法廷とは検察官や被告人、証人などの座席の配置が異なるのが分かり、興味深かったです。

おおば比呂司記念室(1階)

おおば比呂司記念室のアトリエ再現展示

札幌出身の画家・漫画家おおば比呂司の、作品や愛用の品を展示する記念室です。

おおば比呂司は昭和30年代から60年代を中心に、一コマ漫画、雑誌や本の挿絵、お菓子などの商品パッケージなどを手がけた作家で、その温かみのある作品は多くの人に親しまれています。

記念室では、おおば比呂司の代表的な作品や、生前のアトリエの再現などを見ることができます。
また、彼のイラストをあしらったオリジナルグッズの販売も行われています。

その他の展示室など

札幌市資料館の大通交流ギャラリー
札幌市資料館2階「大通交流ギャラリー」
札幌市資料館2階から見た大通公園の眺望
大通交流ギャラリーから大通公園を望む

2階中央の一室「大通交流ギャラリー」は、大通公園に面した解放スペースです。
さっぽろテレビ塔を正面に望む眺望は美しく、札幌観光の穴場スポットの一つとなっています。

札幌市資料館のまちの歴史展示室

また、札幌の街づくりの歩みを紹介する「まちの歴史展示室」も設置されています。

この展示室では、開拓の始まりから札幌の街ができるまでの歴史や大通公園の沿革のほか、北海道の裁判にまつわる歴史や、札幌市資料館の建築資材である札幌軟石について学ぶことができます。

札幌の美しい建築物と眺望を楽しめる、札幌市資料館

札幌市資料館は、地元産の石材である札幌軟石で作られた建物としては現存最大級であり、その歴史的価値と美しい外観が印象的な建築物です。

札幌市資料館と初秋の大通公園
札幌市資料館と初秋の大通公園

今回、札幌市資料館を訪れる機会を得て、札幌軟石がもつ温かみのある雰囲気や大正時代のモダニズムを感じさせる細部のデザインなどに、改めて魅力を感じました。

室内には「まちの歴史展示室」「おおば比呂司記念室」などの、歴史から芸術・アート関連まで幅広いジャンルの展示室が設けられており、興味深く鑑賞することができました。

また、2階から眺める大通公園の眺望も素晴らしく、ゆったりと時間を過ごすことができました。

札幌市資料館と大通公園の若い女の像

札幌の歴史や文化を幅広く学ぶことができるだけでなく、美しい建築物や心地よい眺望を楽しむことができる札幌市資料館。

歴史や文化に興味のある方はもちろん、普段あまり美術館や博物館に足を運ばない方にも、ぜひ一度訪れてほしいスポットです。

アクセスと開館時間

休館日;毎週月曜日(祝祭日の場合はその翌平日)、年末年始(12月29日~1月3日)
開館時間;9:00 ~ 19:00 
入館料;無料
電話番号;011-251-0731
アクセス;地下鉄東西線「西11丁目駅」から徒歩5分、札幌市電「中央区役所前」「西15丁目」から徒歩6分 ※駐車場なし
公式HP;札幌市資料館公式サイト 

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参考資料
「さっぽろ文庫23 札幌の建物」(札幌市教育委員会 編/1982年)

「新札幌市史 第3巻 通史3」(札幌市教育委員会 編/1994年)

  • この記事を書いた人

福島智美

札幌生まれ、札幌育ちの文学修士。学術からビジネス実務の道へ転身し、山口と共に起業する。学芸員資格者でもあり、北海道博物館での実習経験もある。本サイトでは史跡や寺社などを担当。趣味は和装とフィギュアスケート観戦。

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