イサム・ノグチの手によるランドスケープアートの傑作
モエレ沼公園とは?
モエレ沼公園は札幌市東区にある札幌市を代表する都市公園のひとつで、世界的な彫刻家であるイサム・ノグチが基本設計を手掛けたことで知られる。1988年に造成工事に着工し、その後17年間という長い歳月をかけて段階的に整備しながら、2005年にグランドオープンした。
モエレ沼公園の最大の特徴は、約188.8ヘクタール(東京ドームおよそ40個分!)にも及ぶ広大な敷地の随所に、アーティスティックな造作が見られることだろう。まるで公園全体がランドスケープアートといった雰囲気で、芸術性に満ちた非日常的な空間となっている。
彫刻家イサム・ノグチについて
イサム・ノグチは日系アメリカ人の彫刻家であり、欧米で彫刻を学び、北大路魯山人の指導を受けて素焼きの作品を制作したこともある新進気鋭のアーティストだ。東西の芸術精神を融合させたランドスケープ・デザインを数多く発表したことで国際的に高い評価を受けている。
モエレ沼公園は不燃ごみの埋立地だったが、市の緑化事業により都市公園への転用が決まった際、ノグチは「人間が傷つけた大地をアートで再生することこそ、私の仕事である。」といい事業に参画することになった。しかし着工した年の暮れに、ノグチは急逝してしまう。
SIAF2017
SIAF(サイアフ)とは札幌国際芸術祭であり、第2回目となる2017年は、札幌市全域をモエレ沼公園や札幌芸術の森を拠点に開催された。モエレ沼公園にあるガラスのピラミッド付近に高さ16mから滝のように流れ落ちる巨大なバルーンが出現したことは記憶に新しい。
「空から地上を眺めるような視点で大地を彫刻したい。」というイサム・ノグチの構想に感銘を受けたSIAF主催者は、モエレ沼公園から成層圏をめがけて気球を飛ばしたそう。成層圏で記録された気球の速度や気圧のデータをもとに即興演奏を行ったりもしたそうだ。
モエレ沼公園の主な見どころ
モエレ山
モエレ山はモエレ沼公園のシンボル的な存在であり、不燃ごみと建設残土を積み上げて造成された標高62.4mの人工の山である。人工の山ではあるが、平坦な土地が多い東区では唯一の山であり、地域のランドマークとして知られている。
モエレ山は3方向5ルートから登ることができ、いずれのルートもおよそ10分程度で山頂の展望台に到達する。展望台からの眺望はまさに絶景だが、雄大なパノラマもさることながら、冬季の雪景色と都心部の夜景のコントラストもなかなか趣があって良い。
ガラスのピラミッド
モエレ沼公園の施設の中でひときわ目をひくガラスのピラミッドは、公園の文化活動の拠点となる施設であり、同時に公園を象徴するモニュメントでもある。屋上からは公園を一望でき、きっとその壮大な景観に息を呑むことだろう。
ガラスのピラミッドは屋外の環境をダイレクトに反映し、四季折々の変化を室内に呼び込む設計となっている。夏には美しい芝生と青空が、冬には一面の雪景色が、まるで絵画のように広がる。また環境負荷低減のため、雪冷房システムを導入している点も特徴的である。
テトラマウンド
テトラマウンドは、銀色に輝くステンレスの円柱を三角形に組み合わせた、シンプルながらもダイナミックなモニュメントである。巨大な円柱は、光を浴びると様々な表情を見せ、芝生の緑とのコントラストが美しい。
このモニュメントは、単なるオブジェにとどまらず、来園者がマウンドの上に立ち、空を見上げることで、ノグチが目指した彫刻の世界を体感できるよう設計されている。また、隣接する広場は、音楽やパフォーマンスのステージとして利用されている。
アクアプラザ&カナール
アクアプラザ & カナールは、モエレ山とプレイマウンテンを結ぶ、水と石で構成された広大な空間である。静かに湧き出す水がカナールへと流れ込み、訪れる者に安らぎを与える。水深は浅く、夏場には涼を求めて多くの人々が訪れる。
この広場は、イサム・ノグチが設計したモエレ沼公園の他のエリアと同様に、幾何学的な形状が特徴である。特に、上から見ると園路によって三角形に区切られた様子は、ノグチの幾何学へのこだわりを象徴しているかのようだ。
海の噴水
モエレ沼公園の中央に位置する海の噴水は、直径48メートルの巨大な噴水である。ノグチは、この噴水を「水の彫刻」と呼び、生命の誕生や宇宙を表現したいと考えていた。海の噴水のダイナミックな水の流れは生命の躍動を感じさせ、公園全体に活気を与えている。
海の噴水は、40分のロングプログラムと15分のショートプログラムを繰り返し、様々な表情を見せてくれる。ロングプログラムでは、間欠泉のように水が吹き上がり、その後は水面が波打ち、まるで嵐のようなダイナミックな様子を鑑賞することができる。
ミュージックシェル
ミュージックシェルは、プレイマウンテンを背景に、コンサートや舞踊などのパフォーマンスが行われるための舞台である。白い半球形の形状は、周囲の風景に溶け込みつつ、来場者の視線をステージへと自然に導く仕掛けとなっている。
プレイグラウンドに音楽の場を設けるというイサム・ノグチの構想にもとづいて、彼の遺したスケッチや模型を参考に、ミュージックシェルは造られた。ノグチの意図を忠実に再現したことで、モエレ沼公園において、自然と人工が調和した新たな文化的な場が誕生したといえる。
プレイマウンテン
プレイマウンテンは、イサム・ノグチが長年温めてきた「遊び山」という構想を具現化したものである。ノグチは、この作品を「彫刻を大地に関連づけるあらゆるアイディアの核」と位置づけ、彫刻とランドスケープを融合させた新たな芸術表現の可能性を示した。
プレイマウンテンは、瀬戸内海から運ばれた花崗岩を積み上げた99段の石段が特徴的である。その形状は、古代のピラミッドを彷彿とさせ、大地に深く根ざした力強さを表現している。石段の反対側には、緩やかな白いスロープが頂上へと続いてゆく。
モエレビーチ
モエレビーチは、海のない札幌の子どもたちに、イサム・ノグチが贈った水遊び場である。遊歩道で囲まれたすり鉢状の敷地の中央に、総水量800t、最深部45cmの浅い池が作られており、まるで海辺のような光景が広がる。
池の中心から湧き出した水は、美しい波紋を描いて珊瑚で舗装された「海辺」へと流れ、子どもたちは水しぶきを上げて遊ぶ。この池の有機的な形状は、ノグチが自ら紙を切り抜いてデザインしたものであり、彼の独創性が際立つ。
サクラの森
モエレ沼公園のサクラの森は、約1,600本の桜に囲まれた、子どもたちの冒険心を刺激する遊び場である。イサム・ノグチは、この場所を「背丈90cmの人間が走り回る世界」と表現し、子どもたちが自然の中で自由に遊び、発見することを願った。
森の中には、ノグチがデザインした126基のカラフルな遊具が点在している。これらの遊具は、子どもたちの五感を刺激し、創造性を育むことを目的としている。子どもたちは、自然と一体となり、自由に体を動かし、遊びの世界を広げていく。
モエレ沼公園のゆきかた
モエレ沼公園は、自然とアートが融合した独特な景観と、様々なイベントを楽しむことができ、札幌市内の都市公園の中でも異彩を放つ存在である。ご来札の折には、ぜひモエレ沼公園まで足を伸ばして、イサム・ノグチのスピリットを感じてみてはいかがだろうか。
アクセス
電話番号;011−790−1231
アクセス;地下鉄東豊線環状通東駅から中央バス(東69、東79、東61)乗車、モエレ沼公園東口(東61は西口)下車。
公式サイト;モエレ沼公式サイト
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参考文献
・モエレ沼公式サイト
・札幌国際芸術祭2017公式ガイドブック(マガジンハウスムック)