都会にほど近く手軽に登山を楽しめる円山

札幌市中央区の円山公園の背後に位置する「円山」は、住宅街のすぐそばにありながらその自然の豊かさで国の天然記念物に指定されています。
また、登山道(自然歩道)は手軽なハイキングコースとして市民に親しまれているほか、道沿いにおかれた観音像は「円山八十八ヵ所」として信仰の対象ともなっています。
円山に登ってみた

円山の登山道(札幌市の自然歩道)の総距離は2.7km、麓から山頂までは約1kmと40分ほどで頂上にたどり着くことができます。
スニーカー履きの軽装でも気軽に登ることができ、家族連れや年配の方でも登山を楽しむことができます。実際に円山に登ってみましたので、その様子をお伝えしたいと思います。
登山口は2つ

円山の登山道には、「八十八ヵ所入口」と「円山西町(動物園裏)入口」の2つがあります。また、麓にはこれらをつなぐ自然歩道も整備されています。
今回は「八十八ヵ所入口」から入山し、頂上を経由して「円山西町(動物園裏)入口」方面へ下山、麓の自然歩道を通ってスタート地点の「太子堂」へ戻るルートを歩きます。
スタートの前に…円山八十八ヵ所って?

遡ること大正3(1914)年、上田万平(うえだまんぺい・円山村の開拓功労者)らにより円山の登山道が開かれた際、そのかたわらに四国八十八ヵ所にちなんだ88体の観音像がおかれました。
これが円山八十八ヵ所の始まりです。
四国八十八ヵ所の巡礼は江戸時代に一大ブームとなりましたが、その結果、手軽に巡礼ができる場所として全国各地にミニチュア版の巡礼地が作られるようになりました。
円山の八十八ヵ所もこうした「四国八十八ヵ所のミニチュア版」の一つなのです。

太子堂からスタート

地下鉄の円山公園駅から円山動物園方面へ歩くこと10分強、円山登山道の八十八ヵ所入口がある「太子堂」が見えてきました。
太子堂は登山道に観音像がおかれた際にあわせて建立されたもので、弘法大師(空海)の像が祀られています。


なぜ、弘法大師が祀られているのかというと、本家である四国八十八ヵ所の霊場が弘法大師ゆかりの寺院とされているためです。

数々の観音像

太子堂でお参りを済ませ、右手にある階段から登山道を進みます。
前述のように、太子堂から頂上に向かう道すがらには多くの観音像が並んでいます。
当初は四国八十八ヵ所にちなみ88体だった観音像ですが、その後も献納が続き、現在ではその数200体以上と言われます。

観音像と並んで小さな鳥居や祠が祀られているところもあります。

家族連れでも気軽に登れる円山ですが、道中には木の根が這うところもあるので、足元には気を付けなくてはなりません。

帽子をかぶった観音像。以前訪れた時には違う帽子をかぶっていました。

いろいろな表情の観音様






帽子を被った像、前掛けをした像など、今も人々の信仰を集めていることがうかがえます。
熊出没注意

途中で「熊出没注意」の貼り紙を見かけました。
円山は周囲を住宅街に囲まれていることもあってか、ここ数年、熊そのものを目撃したとの通報はありません。
とはいえ、熊らしき動物の鳴き声を聞いたとの情報が毎年1~2件の頻度で寄せられているようですので、登山の際は注意しましょう。
円山の山頂

太子堂から歩くこと40分ほどで頂上に到着しました。大変見晴らしがよく、東側に札幌の街を一望できます(下記の写真をクリックすると拡大できます)。
JRタワー(中央区)
札幌ドーム(豊平区)
野幌百年記念塔(厚別区)
札幌の展望スポットとしてはテレビ塔や藻岩山が有名ですが、時間と体力に余裕があれば円山に登ってみるのもいいかもしれませんね。
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山神の碑

山頂の一番の見どころはやはり眺望ですが、「山神」と書かれた石碑も見逃せないポイントの一つです。
この石碑は明治5(1872)年、開拓使庁舎を作るための石材を円山から切り出す際に、作業の無事を祈って建てられました。

頂上東側の岩石が露出している場所は、石材を切り出した痕跡といわれています。
円山西町入口側に向かって下山

頂上で札幌のパノラマ風景を堪能した後は、円山西町(動物園裏)入口側へ向かい道を下っていきます。
こちらのルートには観音像がないので、自然観察をしながら歩くのがおすすめです。
自然の驚異か、はたまた神様のいたずらでしょうか・・。とても変わった枝ぶりの木を発見。


なお、円山は国の天然記念物に指定されているため、動植物の採取や登山道以外への立ち入りが禁止されています。
自然観察の際も、登山道から見て楽しむ範囲にとどめましょう。
円山川に沿って太子堂へ

麓まで下りると道が左右二手に分かれますが、今回はスタート地点の太子堂へ戻るので右側に進みます(左側は円山西町(動物園裏)入口に通じている)。
太子堂まで多少の高低差があるものの、山頂に通じるルートと比べて平坦で歩きやすいです。

ふと見ると、すぐそばの木の幹にリスの姿がありました。
写真を撮っても逃げることはなく、再び歩き始めるとしばらく後をついてきました。

やがて円山動物園の入口へ続く木道が見えてきますが、このあたりからは左手に並行して円山川が流れます。
川の対岸にある杉林や円山の斜面側にあるカツラの古木などを観察しながら歩くこと5分ほど、スタート地点の太子堂に戻ってきました。
距離にして約2.5km、時間にして1時間30分ほどの行程でした。
円山アラカルト
名前の由来

円山村ができるより前、アイヌの人たちは円山を「モイワ(アイヌ語で小さな岩もしくは静かな岩山の意味)」と呼んでいました。
しかし、現在「モイワ」と呼ばれている山はロープウェイやスキー場で有名な「藻岩山」のほうです。
これはなぜでしょうか?

実は、明治4(1871)年に開拓使が「モイワ(現在の円山)」の麓を「円山村」と名付けたところ、「モイワ」と呼ばれていた山も「円山」と呼ばれるようになってしまったのです。
宙に浮いた「モイワ」という名前は、いつしか「インカルシペ(アイヌ語で見張り山の意味)」と呼ばれていた円山の南側の山をさすこととなり、今に至ります。
札幌の街づくりとの深いかかわり


現在の南一条通と大友堀(現在の創成川)が交差するところを札幌の街づくりの起点と定めた開拓判官の島義勇は、円山に登ってその構想を練ったといわれています。
島判官は札幌神社(現在の北海道神宮)を円山の現在地に建立することを決定した人物でもあります。
また、前述のように開拓使庁舎の建設資材となる石材を切り出したと伝わるなど、円山は開拓初期から札幌の街づくりと深いかかわりがあったことがうかがえます。
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天然記念物

円山の一部は大正10(1921)年に、その豊かな植生を理由として国の天然記念物に指定されています。
明治時代に円山を訪れたアメリカの著名な植物学者から、気候や山の大きさの割に極めて樹木が豊富で世界的にも珍しいと評価を受けたことからも、その貴重さがうかがえます。

なお、「円山原始林」として天然記念物に登録されているものの、その実態としては「原生林」に近い「天然林」であるとされています。
古くから札幌市民に親しまれてきた山

札幌の市街地からほど近い円山は、札幌の街づくりと深いかかわりを持ち、また、麓に北海道神宮が建立され、登山道に八十八ヵ所巡りが整備されるなど、古くから信仰の場となってきました。
また、現在では気軽に自然を楽しめるハイキングコースとしても知られています。円山はこれからも札幌市民にとって身近な山として親しまれていくことでしょう。