公園・散策路

精進河畔公園(札幌市豊平区)

2023年1月31日

精進川と河畔公園

都会の中の清流

精進川
精進河畔公園を静かに流れる精進川

精進川は南区の滝野丘陵を源流とする全長14.2kmの河川である。市街地に出ると地下鉄南北線に沿うように真駒内駅から平岸駅まで流れ幌平橋の下流で豊平川に合流する。

精進川流域の大部分は市街地となっている。しかし市街地を流れる河川としてはそこそこの水勢と比較的澄んだ水質もあって精進川はさながら都会の中の清流といった趣がある。

精進川の名の由来

精進川の滝
夏の精進川の滝は子供達にとって格好の水遊びスポット

精進川という名称の由来には2つの説がある。ひとつはアイヌ語の「オショウジ(川床に滝のある場所)」が訛って「御精進川」→「精進川」に変化していったという説。

もうひとつは精進川を遡上した魚が精進川の滝に行く手を阻まれてしまうことから「その先からは魚の生息しない川」=「精進する川」に由来するという説である。

冬の精進の滝

冬の精進川の滝。冬季でも氷結せずに一定の水量を保っている。滝の落差はさほど大きくないのでサケよりジャンプ力の強いサクラマスであれば越えてゆけそうだ。

サクラマスの遡上する川

精進川を遡上するサクラマス
精進川を遡上するサクラマス

精進川はサクラマスが遡上する河川として知られている。サクラマスはヤマメが降海して大型化したものだが、サケに比べると魚体がふたまわりほど小さいので精進川でもさかのぼることができる。桜色に染まった腹部と青っぽい口蓋が特徴的だ。

精進川を遡上するサクラマス2

精進河畔公園内の精進川を一生懸命に遡上してゆくサクラマス。頭の形状から推察するにこの個体は恐らくメスだろうか。河畔林はマス類の稚魚にとって最適な生育環境となっている。

冬の精進川。水面は氷雪に覆われているが水中は凍らない。秋に産卵された卵は冬に孵化し、稚魚はお腹の臍嚢(さいのう=栄養袋)を頼りに川床の砂利の中で春の訪れをじっと待つ。

冬の精進川

開拓期の平岸と精進川

平岸林檎と精進川

精進川と水門
現在はすでに使われていない水門が残されている

札幌市は地下水脈が潤沢な地域なので開拓期には市内のあちこちで井戸が掘削された。しかし平岸地区は地質的に井戸水に恵まれず、住民達はやむなく雨の日も風の日もせっせと豊平川に水を汲みにいっていたそうだ。

明治6年になると地域の住民達が精進川から用水路を引いて生活用水を取水したり、当時平岸地区で盛んだったリンゴ栽培の農業用水として活用したりするようになった。そのおかげで平岸地区はリンゴの産地として発展してゆくことになる。

平岸郷土資料館

精進河畔公園の北東1kmほど先に平岸郷土資料館があり開拓時代のリンゴ栽培にまつわる資料が多数展示されている。全盛期には平岸林檎というブランド名で人気を博した。

冬の農家を支えた氷池

精進河畔公園の氷池
かつての氷池を再現した屋外展示

大正11年(1922年)から昭和12年(1937年)頃にかけて厳冬期には精進川と豊平川の南22条大橋との間におよそ幅25メートルの池を設けて天然氷を造り、馬車に積み込んで札幌の中心街に出荷していた。

出荷できる厚さの氷ができるまで時間を要したため、天然氷はシーズン中に2回しか切り出すことができなかったようだが、農閑期の林檎農家にとっては貴重な収入源となった。

精進河畔公園のマガモ

春から晩秋にかけて氷池で暮らすマガモたちを観察することができる。すっかり人馴れしているのかカメラを向けても逃げることもなくのんびり毛づくろいしていた。

河川土木の傑作・精進河畔公園

野趣あふれる地域のオアシス

精進河畔公園
精進河畔公園の南側出入口付近にて

精進河畔公園は精進川の下流域にある公園で、川の流れに沿って南北に細長く伸びた園内には広葉樹や針葉樹が生い茂り、リスやアカゲラなどの小型の野生動物も生息している。

散策路は深山幽谷といった雰囲気だが周囲を幹線道路と住宅街にぐるりと囲まれているためヒグマやマムシに怯えることもなく、四季を通じて気軽に自然と戯れることのできる周辺地域の憩いの場となっている。

親水広場付近で遭遇したキタキツネ。キタキツネは付近の天神山緑地でも見かける。人馴れしたキタキツネが近づいてきてもエキノコックス感染症リスクがあるので絶対に触らないこと。

園内には連絡階段が設けられており、階段を登ると平岸地区に出る。天神山緑地や相馬神社、平岸天満宮・太平山三吉神社などのみどころスポットが集まっていて徒歩でもアクセスできる。

精進河畔公園の連絡階段

階段を登ると平岸中の島三十三番観音がある。これは昭和10年に精進川の堤防上に道路を新設してその脇に33体の観音像を設置した後、昭和28年に現在地に移転したもの。

親水広場の河川土木技術

精進河畔公園の親水広場
親水広場には随所に河川土木技術が導入されている

もともと精進川は用水路の水源として利用されていたこともあり、かつての精進河畔公園の河岸は護岸ブロックと鉄柵に覆われただけの殺風景な外観だった。

しかし北海道が精進川流域を河畔林保全区域に指定したことで、この一帯を河畔公園として再開発することになり、河岸の護岸ブロックは撤去され、来園者が水辺にアプローチしやすいように緩やかな斜面に変更された。

また河川を蛇行させることでより自然に近い流れを再現し、川床の玉石を敷いて川の流れに変化をつけたり(組石帯工)、水中に小さな段差を設けて魚道を確保したり(斜路式落差工)するなど、随所に河川土木の技術がみられる。

土木学会デザイン賞の受賞

夏の精進河畔公園
親水広場付近を散策する

北海道の河畔林整備事業にもとづき、精進河畔公園は植樹と緑化によって河川の保水機能を高めつつ、子供達でも安全に水辺とふれあえるような親水公園として生まれ変わった。

近代的な河川土木技術を駆使して治水と生態系の保護に配慮しながら地域住民に憩いの場を創出した施工は高い評価を受け、2007年に土木学会デザイン賞(優秀賞)を受賞する。

自然と都会が調和した札幌らしい公園

精進河畔公園のアカゲラ
精進河畔公園の樹木に営巣するアカゲラ

精進河畔公園の管理者は札幌市となっているが精進川流域の河畔保全林は北海道の所有となっている。これは道の河畔林保全事業において河畔林が多様な生物の貴重な生息環境となっており、敷地の境界にとらわれず一体的に保全することが望ましいとされているからだ。

小さいながらも多彩なエピソードがたくさん詰まった精進河畔公園は地下鉄駅から徒歩10分くらいの便利な場所にある。もし平岸方面にお越しの際にはサクラマスや河川土木のことなどを思い出しつつのんびりと精進河畔公園を散策してみてはいかがだろうか。

精進河畔公園の四季

精進河畔公園のエゾヤマザクラ

春の精進河畔公園

春の精進河畔公園は知る人ぞ知る隠れた桜の名所でもある。写真は花びら舞う見納め時のエゾヤマザクラ。

夏の精進河畔公園

初夏には園内の藤棚が鮮やかな紫色に染まる。近隣の子供達には水遊びが待ち遠しい頃。

精進河畔公園の藤棚
晩秋の精進河畔公園

秋の精進河畔公園

晩秋の精進河畔公園。遠くに藻岩山を望む。ドヴォルザークの「新世界より」が聞こえてきそう。

冬の精進河畔公園

冬の精進河畔公園は凛とした静寂が漂うモノトーンの世界。この一年を振り返って静かに内省。

冬の精進河畔公園

アクセス

北側入口;地下鉄南北線南平岸駅から徒歩10分
南側入口;地下鉄南北線南澄川駅から徒歩10分

参考文献
札幌市公園検索システム「精進河畔公園」 
さっぽろ文庫44「川の風景」
北海道土木局河川砂防課「豊かな河川環境づくり」
土木学会景観・デザイン委員会 土木学会デザイン賞2007 優秀賞 精進川

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  • この記事を書いた人

山口光博

札幌育ちの人事コンサル。リテール業界に詳しく学生バイト時代を含めるとコンビニ、食品スーパー、総合スーパー、問屋&物流センターなど、流通チャネルに関わるほとんどの職場を経験。地元とスープカレーをこよなく愛す。

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