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平岸郷土資料館(札幌市豊平区)

2023年2月2日

往年のリンゴ産地の歴史を学ぶ平岸郷土資料館

平岸郷土資料館の展示風景

札幌市内には、各地区の歴史や文化を学べる郷土資料館が数多くあります。
かつてリンゴの産地として知られていた平岸地区にある平岸郷土資料館も、その一つです。

今回は筆者が実際に訪ねた感想を交えつつ、平岸郷土資料館をご紹介します。

平岸地区の歴史

平岸の地名は、アイヌ語の「ピラ・ケシ・イ」(崖の・尻の・ところ)に由来するといわれています。
また、網の原料となる麻を栽培していた開拓初期には、麻畑とも呼ばれていました。

開拓以前の平岸(縄文時代からアイヌ文化期まで)

札幌市埋蔵文化財センターに展示のT310遺跡から出土した土器
平岸地区の遺跡から出土した土器(札幌市埋蔵文化財センターにて撮影)

平岸地区では、縄文時代から擦文時代まで、数多くの遺跡が見つかっており、土器や石器の他、竪穴住居の跡なども出土しています。

また、平岸地区にある天神山には、19世紀前半にできたといわれるチャシ(アイヌの人々が築造した施設)の跡が残っています。

このように、平岸地区は古くから人々が生活していた場所だったことがうかがえます。

平岸開拓のはじまり

開拓が始まったばかりの頃の平岸の様子
明治4(1871)年、開拓が始まったばかりの頃の平岸(北海道大学付属図書館所蔵)

明治時代になると、国による北海道の開拓が本格化します。

そして明治4(1871)年、岩手県水沢(現在の奥州市)出身者を中心に60戸あまりが、現在の平岸街道沿いに入植しました。
これが平岸の開拓の始まりとなりました。

開拓使からは小屋や農具、3年分の米や味噌が配給されましたが、大木が生い茂る原野を切り拓くのは並大抵のことではありませんでした。

更に平岸は井戸を掘っても良質な水が得られず、入植から間もない明治6(1873)年には、村人総出で精進川の水を引く用水路を作るなど、様々な困難にも直面しました。

リンゴの産地として

明治末年頃の平岸の様子
明治末年頃の平岸のようす(北海道大学付属図書館所蔵)

こうして開墾した農地でしたが、平岸地区は土地がやせていたことから作物の育ちはよくなく、離村者が出るなど開拓民の生活は苦しいものでした。

そんな平岸地区でリンゴの生産が本格化したのは、明治20(1887)頃のことでした。

当時、札幌とその近郊では盛んに栽培されていたリンゴですが、病害虫の被害などにより、明治30年代後半には衰退し始めていました。

しかし、平岸では他の地区に先駆けて明治41(1908)年に果樹組合を設立し、栽培法の改善や農具・農薬の共同購入を行うなどの努力を行いました。

その結果、平岸は札幌でも有数のリンゴの産地として知られるようになりました。

戦後の宅地化

住宅が立ち並ぶ現在の平岸地区
住宅が立ち並ぶ現在の平岸地区(中央は札幌市営地下鉄のシェルター)

昭和20年代になると平岸リンゴの栽培面積は270haに達し、生産の最盛期を迎えます。

ですが、団地の造成や道路・橋の整備が進んだことで平岸地区の宅地化が進展し、昭和30年代にはリンゴの生産量が減少し始めました。

また、昭和46(1971)年には地下鉄が開通、市街地への交通が便利になり、更に住宅地が広がりました。
その結果、昭和60年代にはリンゴ園はほぼ姿を消してしまいました。

現在では、平岸からほど近い環状線(道道89号)の中央分離帯の一部に植えられたリンゴ並木に、往時の姿をとどめるのみとなっています。

平岸郷土資料館を訪ねて

かつてリンゴの里として知られた平岸地区。
その歴史を知りたいと思い立ち、ある冬の日の午後、平岸郷土資料館を訪ねました。

平岸郷土資料館のようす

平岸郷土資料館の建物
左側のレンガ色の建物が平岸郷土資料館

平岸郷土資料館は、平岸児童会館に併設された施設です。
玄関は郷土資料館・児童会館とも共通で、郷土資料館は向かって左側にあります。

郷土資料館の扉は、児童会館の事務室へ申し出ると開錠してもらえます。

平岸郷土資料館の展示

平岸郷土資料館の展示の様子

平岸郷土資料館では、平岸で発見された遺跡から出土した土器や石器、地区の方々から寄贈された農具や生活用具などが展示されています。

また、古代から昭和にかけての平岸の様子を描いた絵画や、明治から昭和の平岸の写真などもあります。
これらの展示を見ることで、過去の平岸の姿をよりよく理解できるでしょう。

更にリンゴの栽培手順の説明など、平岸リンゴの生産地ならではの内容も多く含まれているのが特徴です。

印象に残った展示

ここでは、平岸郷土資料館で印象に残った展示を、いくつか紹介します。

リンゴの木

平岸郷土資料館に展示されているリンゴの木

室内に入るとまず目に飛び込んでくるのが、リンゴの里・平岸を象徴するリンゴの木です。

木の葉や果実はレプリカですが、幹の部分は地域の方から寄贈された本物で、腐らん病という病気にかかった跡が残されています。

平岸郷土資料館に展示されているリンゴ箱

他にも、リンゴを入れる木箱や籠、人工交配用の花粉に使うふるいなど、リンゴ栽培に使われていた道具が数多く展示されおり、当時の様子を偲ぶことができます。

遺跡の出土品

平岸郷土資料館に展示されている土器や石器

坊主山遺跡(T310遺跡)や東山遺跡(T71遺跡)など、平岸地区の遺跡から発掘された石器や土器の破片の展示です。

復元後の土器の写真も解説付きで展示されており、当時の生活や文化を理解するのに役立ちます。

馬具一式

平岸郷土資料館に展示されている馬具や農具
平岸郷土資料館に展示されている馬具一式

市内各地に残る馬魂碑や馬頭観音碑などからも分かるように、馬は移動手段だけではなく、農耕の労働力としても欠かせないものでした。

平岸郷土資料館では、背ずり、梶棒など馬具一式を展示しています。
その中には馬そり用の馬具もあり、北国の冬の暮らしを垣間見ることができます。

平岸リンゴの面影を今に伝える郷土資料館

平岸郷土資料館に展示されているリンゴのレプリカ

平岸郷土資料館は、平岸の歴史や文化を学ぶのに最適な施設です。

リンゴの木や農家で使われていた道具の数々を見ていると、かつて平岸に広がっていたリンゴ園の面影が浮かんできます。今は住宅地となった平岸ですが、郷土資料館を訪れれば、その昔の姿を偲ぶことができます。

平岸の歴史や文化に興味のある方は、ぜひ一度平岸郷土資料館を訪れてみてください。

アクセスと開館時間

休館日;年末年始、日曜・祝日
開館時間;8時45分 ~ 18時
入館料;無料
アクセス;地下鉄南北線「平岸駅」から徒歩10分
ホームページ;平岸郷土資料館公式サイト

こちらもおすすめ

参考文献
「さっぽろ文庫1 札幌地名考(札幌市教育委員会 編/1977年)
「さっぽろ文庫7 札幌事始」(札幌市教育委員会 編/1979年)
「さっぽろ文庫40 札幌収穫物語」(札幌市教育委員会 編/1987年)
「さっぽろ文庫50 開拓使時代」(札幌市教育委員会 編/1989年)
「新札幌市史 第1巻 通史1」(札幌市教育委員会 編/1989年)
「新札幌市史 第2巻 通史2」(札幌市教育委員会 編/1991年)

  • この記事を書いた人

福島智美

札幌生まれ、札幌育ちの文学修士。学術からビジネス実務の道へ転身し、山口と共に起業する。学芸員資格者でもあり、北海道博物館での実習経験もある。本サイトでは史跡や寺社などを担当。趣味は和装とフィギュアスケート観戦。

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