2023年 第73回さっぽろ雪まつり
さっぽろ雪まつりは70年以上の歴史をもつ札幌市の冬のイベントで、今や国内外から200万人以上の観光客がやってくる国際的な祭典となっている。2021~2022年は新型コロナのため雪像をWeb配信するだけだったが2023年は久々のリアル雪まつり復活となった。
例年、さっぽろ雪まつりは7日間の日程で行われる。しかし2023年は1日多い2月4日(土)~11日(土)の8日間である。久々の開催による観客への配慮なのか運営側の準備の都合なのか外野には知る由もないが、札幌の一市民としては素直にうれしい。
さっぽろ雪まつりの沿革
さっぽろ雪まつりは1950年に札幌市内の中高生が大通公園に6つの雪像を造ったことがきっかけで始まったと言われている。その翌年には大人達も雪像制作に参加し、あわせて雪合戦などのイベントも採り入れたことで冬のお祭りとして盛り上がってゆく。
1955年になると自衛隊による精緻なディティールの大雪像が出現し、これがTVニュースで報道されると本州からの観光客が来場するようになる。1965年には自衛隊基地のある真駒内に新たな会場が追加され2005年の終了まで大雪像のメイン会場の役割を担った。
第73回さっぽろ雪まつりの出展作品(一部)
大通会場
白亜紀の北海道(4丁目会場)
4丁目会場は「白亜紀の北海道」と題した巨大な雪のレリーフが展示されていた。これは札幌テレビ放送(STV)の企画と北海道大学総合博物館の協力により制作されたティラノサウルスとカムイサウルスの遭遇シーンを描いた雪像である。
ティラノサウルスは映画ジュラシックパークでおなじみの獰猛な肉食恐竜で7,200年前の北海道にも生息していた。カムイサウルスはむかわ町穂別地区で化石が発掘された後、北海道大学総合博物館に運ばれて全身骨格の化石の復元に成功し話題となる。
疾走するサラブレッド(5丁目会場)
5丁目会場の「疾走するサラブレッド」は北海道新聞社の企画。北海道はサラブレッドの産地として知られており、国内で生育されるサラブレッドの98%が道産なのだそう。特に安平町から静内町にかけて有名な競走馬を輩出した牧場が多数あり観光スポットにもなっている。
エンブリー荘(7丁目会場)
7丁目会場は北海道放送(HBC)の企画による英国のエンブリー荘。エンブリー荘は19世紀のクリミア戦争に従軍した看護師で「ランプの貴婦人」とも呼ばれたナイチンゲールが幼少期を過ごした邸宅である。制作は陸上自衛隊北部方面システム通信群の雪像マイスター達。
豊平館(8丁目会場)
中島公園の豊平館が北海道テレビ放送(HTB)の企画によって8丁目会場に出現。1880年に北海道開拓使直営の迎賓館として建設され1964年に国の重要文化財に指定された豊平館の雪像は陸上自衛隊第18普通科連隊によって細部まで忠実に再現されている。
世界がまだ見ぬボールパーク(9丁目会場)
大通会場のラストは日本ハムファイターズの新庄剛志監督と2023年3月に北広島市に開業予定の北海道ボールパークファイターズビレッジのレリーフ雪像。件の札幌ドーム撤退については札幌市に一言申し上げたいところだがここでは控えさせていただく。
本郷新記念札幌彫刻美術館(3丁目会場)
3丁目の泉の像付近では本郷新記念札幌彫刻美術館から3つの作品が出展されていた。写真は「風の遺跡」というタイトルで札幌市在住の木工家の作。積もった雪が風雪にさらされて縞模様を形成した時の美しい瞬間を雪像にしてみたとのことだが雪国育ちにはよく分かる。
こちらは「つつむ」という作品。制作者は造形作家の方で、雪のもつ厳しい冷たさと、温もりを感じさせる優しさを直線と曲線で表現した。
タイトルは「未来」。未来の「来」の字が麦の実と根を意味することから、この文字をモチーフに生のエネルギーを雪像に投影した作品。
本郷新(ほんごうしん)は札幌出身の彫刻家で代表作には大通公園の泉の像、真駒内公園の雪華の像、釧路市幣舞橋の冬の像などがある。
本郷新記念札幌彫刻美術館は「日本の彫刻芸術の振興と発展のために」という本郷新の遺志により、中央区宮の森にあった本郷新の邸宅を改築して設立された彫刻美術館である。
スノーオブジェ・コンテスト(2丁目会場)
2丁目会場は初音ミクをはじめとするさっぽろ雪まつり公式グッズの販売店があり、そのほかには札幌市内の高校が参加したスノーオブジェコンテストが見どころとなっていた。
札幌厚別高校の「くまちゃんがいいならのってしゃけらいど」はサケの上にヒグマが乗っかって波乗りしているユーモラスな雪像。
札幌南高校の「契~パラダイムシフト」という作品。食物連鎖の両極にいるヒグマと虫からのパラダイムシフトだそう。ちょっと難解。
札幌北陵高校の「シャケな☆ベイベー」。石狩鍋の食材をモチーフに独創的にデフォルメした力作。これは商業デザイン的にも面白い。
市民雪像(3丁目会場ほか)
3丁目会場では一般市民グループが制作した雪像もたくさん展示されていた。寒い中の雪像造りは本当に大変だったと思う。みなさんご苦労さまでした。
シマエナガはエナガの一種で北海道にしか生息していない野鳥。全身が白い羽毛で覆われ愛らしい表情から雪の妖精とも呼ばれている。
2022年に全国的に大ブレークしたキツネダンス。スウェーデンから本家も来札して大いに盛り上がったことはまだ記憶に新しい。
雪まつりの定番「となりのトトロ」。こちらはネコバスとメイちゃん。細かいところまでしっかりと作り込まれた技工派の作品。
隣の観光客が「いやぁグロいわ~」と叫んでいた。喫煙は自身にも周囲にも百害あって一利なし。雪まつり会場はもちろん禁煙。
日本の城は雪まつりの人気のモチーフ。この作品はスケールこそ小さいが細部まで丁寧に仕上げられた仕事ぶりには思わず感心。
N30遺跡から発掘された通称イケメン土偶。西区のJR琴似駅付近にある職業能力開発センターの建設時に地中から偶然に発見された。
すすきの会場
氷の彫刻がずらりと並んだすすきの会場。すすきの会場ではこれまで半世紀以上にわたって氷像展示が行われてきた。2023年は企業PR、コンテスト、キャラクターの3つのカテゴリーに分けて展示されており、陽光にキラキラと反射する様はまさにクリスタルの輝き。
企業PR作品
最も人気を集めていたのが「すしざんまいすすきの店」のブース。本物の魚介類が氷漬けされて大きなレリーフとなっている。海外では珍しいのか外国人観光客の人だかりが絶えず、全体を撮影できるシャッターチャンスがなかなか巡ってこない。まぁしかたないか・・・。
ヒゲのオジサンでおなじみのニッカウヰスキー。飲食店や酒販店が氷の宝船に相乗りして商売繁盛祈願。
ニッカとくればサントリー。ブラックニッカよりワンランク上の「碧 Ao」推しで強気の勝負。
北海道を代表する老舗印刷会社の須田製版も出展。すすきの会場は勇猛な雰囲気の氷像が多い。
大和ハウス工業のブースにはダイワマンSeason2が登場。さっぽろ雪まつりに「なんでダイワマンなんだ?」
すしざんまいの裏側はサッポロビール。熱々の海鮮鍋に冷たいビール=これぞ札幌の正しい冬の過ごし方。
コンクール作品
氷彫刻コンクールは全国から参戦した氷のアーティスト達が制限時間の22時間以内に氷像を仕上げて完成度を競い合う。2月4日(土)午後に氷像づくりスタート。夜を徹して氷と格闘しつつ翌5日の10時30分までにフィニッシュしなければならないガチのアイスバトル。
巣にかかった獲物に襲いかかる大蜘蛛を表現した「捕食」。蜘蛛の巣や脚など繊細に表現されている。
炎の中から鳳凰爆誕!鳳凰の躍動感ある姿と羽の一枚一枚まで精緻に造り込まれた壮麗な作品。
キングサーモンを捕まえる海神ポセイドン。ダイナミックな構図と細かな水しぶきまで作り込まれた傑作。
氷像の足元。切り出した氷の破片が無造作に散らばっていてまさに時間との戦いだったことを物語る。
キャラクター作品
ここからは可愛らしいキャラクター作品。こちらはSTV(札幌テレビ放送)の「どさんこくん」。
UHB(北海道文化放送)の「みちゅバチ」は8チャンネルだからハチ。ちなみに後頭部は刈り上げヘア。
HTB(北海道テレビ放送)のonちゃん。某番組「◯曜どうでしょう」のおかげで本州でも知名度あり。
さっぽろ雪まつり宴の後
雪像解体シーン
事故もなく8日間が過ぎて2023年第73回さっぽろ雪まつりは無事に閉幕した。翌日には観光客もまばらとなり大通公園やススキノ地区は日常の風景を取り戻しつつあるが、会場跡では朝から雪像の解体作業が始まっていた。
間近で見る解体作業は迫力がある。そのため最近は雪像解体ツアーが人気だそうだが、札幌市民は今年の冬もそろそろ終わりだな、と感慨もひとしお。
雪像解体の裏側では仮設事務所の撤去作業が行われていた。心なしか日差しに春の陽気を感じる。あと一ヶ月もすれば芝生が顔をのぞかせるだろう。
解体現場にあった沢山の小さな雪だるま達。まもなく溶けて跡形もなく消えてしまうのだろう。来年の冬も雪になって札幌に帰っておいで。